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次の日、私はマスクなしで学校に行った。
普段以上に緊張しながら教室のドアを開ける。
すると、村重さんが二人の女子と楽しげに会話していた。
「……え……」
二人とも美香グループだ。
私とは違って前列組の。
村重さんが驚くほど自然体で笑っている。
しおれた花のようだった背筋はピンと伸び、臆することなく視線を相手に合わせている。
――本当に、あれが村重さん?
人は言動だけであれほど違って見えるものだろうか。
鈍重な雰囲気は消え、冴えないと思っていた容姿にさえ愛嬌がある。
私は自分の席に向かいながらも、驚きのあまりつい二人を凝視してしまった。
「あ、宮野さんおはよう」
視線に気づいた村重さんが、ぱっと振り向く。
「あ、お、おはよ」
「今日の英語が自習って知ってた? 先生カゼでお休みなんだって」
「え、そうなの?」
「登校中に偶然ほかの先生から聞いてさ。やるはずの小テストもどこ仕舞ってあるか分かんないらしくて、もしかしたらナシになるかもなんだって」
取り巻き二人がホッとした顔で口々に言う。
「ほんとラッキーだわ」
「宮野さんのお母さん情報、マジだったね」
おこぼれのように話題を振られる。
私が何か返すより先に、村重さんが「何それ?」と反応する。
二人が昨日の話を始めたので、私はどういう表情をしていいか分からないままその場に突っ立っていた。
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