10人が本棚に入れています
本棚に追加
「おはよう」
二日ぶりに私は登校した。
教室に入るなり、ほかの女子と話していた村重さんが声を掛けてくる。
「身体大丈夫ー?」
「うん、ちょっとカゼひいちゃって」
私に近寄ってきた彼女が耳元で囁く。
「ココロの好転反応だよ」
サプリを買ったときに聞かされていた。
飲んだあと軽い風邪のような症状が出るが、それは効いている証拠で、治ったあとに必ず効果が出始めるのだと。
「そうだね」
言いながら笑いをかみ殺す。
やっぱり村重さんは正しかった。
私は今、それを身をもって感じている。
底抜けの解放感と爽快感。
私のことを誰がどう思おうが、心底どうでも良い。
友達がいないからなんだというのだ。
これから会話を重ねて友達になればいいのだし、クラス以外にだって人は山ほどいる。
これからの友達は私の周りにあふれていたのだ。
――なんで私、わざわざマスクしてたんだろ。
思い返せば確かに口裂け女のようだ。
コミュ障の上に悪目立ちしていては仕方ない。
前はチキンだったなあと笑い飛ばせる程度には、私は変われた。
この変化はクラスメイトに対してだけには留まらない。
その日の英語で、私は気が付くと黒板に向かう先生の後ろ姿に声を掛けていた。
「そこSじゃなくてCだと思います」
静かな教室に私の声だけが響いた。
にもかかわらず、リビングで交わす家族との会話程度にしか感じない。
数人がぎょっとした顔で振り向いたが、平常心が乱れることはなかった。
休み時間、今まで通り美香を取り巻く輪の中に入る。
やはり後列だったけれど、負い目はみじんもない。
近くにいる子に話しかけ、他愛ない会話を楽しんでいると、いつの間にか村重さんも加わる。
授業開始のチャイムが鳴って、初めて気が付いた。
休み時間の無駄話は、こんなに楽しいものだったのかと。
最初のコメントを投稿しよう!