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「前はいっぱいしてくれたのに、最近してくれないから……。きす、してほしい、なぁ……って……」
ライが答えずに黙っていると、希望の声がだんだん小さくか細くなっていく。すでに潤んでいる瞳の涙の膜がより厚くなって揺らめいた。
「……えっちの時、……だけでも……いいんですけど……」
最後の方は殆ど声になっていなかった。それだけ言うと、希望はライから顔を逸らして、手の甲で隠す。
「……今のなしで……。ごめんなさい…、変なこと言って……」
隠された目元は見えないが、唇は僅かに震えていた。それを押し隠すように、ぎゅうっと唇を結び、それから笑みを作ろうとする。幾度となく見てきたその仕草に、ライの中で言葉にし難い衝動が荒れ狂う。
咄嗟に希望の手首を掴んで顔から退けるが、希望は泣いてはいなかった。驚いたように目を丸くして、限界まで潤んだ瞳はきらきらと輝きを撒き散らす。
少し目を細めて、希望が笑って見せた。
「あの、でも、……もしも、気が向いたら――」
その先の言葉を奪うように、口付けをした。
目障りだ。
掻き消したい。
諦めたように笑うその顔も、
零れ落ちずに目尻に溜まるだけの涙も、
全て飲み込んでしまえたらどんなに楽か。
けれど。
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