後編

18/20
310人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
「前はいっぱいしてくれたのに、最近してくれないから……。きす、してほしい、なぁ……って……」  ライが答えずに黙っていると、希望の声がだんだん小さくか細くなっていく。すでに潤んでいる瞳の涙の膜がより厚くなって揺らめいた。 「……えっちの時、……だけでも……いいんですけど……」  最後の方は殆ど声になっていなかった。それだけ言うと、希望はライから顔を逸らして、手の甲で隠す。 「……今のなしで……。ごめんなさい…、変なこと言って……」  隠された目元は見えないが、唇は僅かに震えていた。それを押し隠すように、ぎゅうっと唇を結び、それから笑みを作ろうとする。幾度となく見てきたその仕草に、ライの中で言葉にし難い衝動が荒れ狂う。  咄嗟に希望の手首を掴んで顔から退けるが、希望は泣いてはいなかった。驚いたように目を丸くして、限界まで潤んだ瞳はきらきらと輝きを撒き散らす。  少し目を細めて、希望が笑って見せた。 「あの、でも、……もしも、気が向いたら――」  その先の言葉を奪うように、口付けをした。    目障りだ。  掻き消したい。  諦めたように笑うその顔も、  零れ落ちずに目尻に溜まるだけの涙も、  全て飲み込んでしまえたらどんなに楽か。  けれど。       
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!