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本日のお客様は中年風の男性だ。 どうやら使い始めて50年ほど経ったiBodyを、そろそろ新しいものにしたいらしい。人型情報端末の寿命はだいたい30~40年。本来の人間の身体でいうところの働き盛りに当たる年数くらいが限界であろうと言われている。この男性は余程こまめに端末をメンテナンスしていたのだろう。次々とiBodyのバージョンが更新され、最新のカラダに乗り換えていくことが良しとされているこのご時世には珍しいタイプの方だな、と思いながらもキシモトは仕事に取り掛かる。 「では、早速ではございますが、新しいおカラダのご希望についてお伺いして参ります」 はい、どうぞ。という男性の了承を得て、キシモトは軽快なテンポで質問を繰り出していく。 「身長はどのくらいにいたしましょう?」「筋肉質で逞しい体つき…それとも細身でスタイリッシュな体型の方がよろしいでしょうか?」「瞳のお色はいかがいたしましょう?」「そのほか、才能などのオプションは現在のおカラダのものを全て引き継いでしまってよろしいですか?もちろん、追加も可能でございます」 しかし、どの質問に対しても男性はあぁ、とか、うぅん、とか一定の間隔で感嘆詞を漏らすと「今のままで大丈夫です」とだけ答える。 大抵の客は何十年も使い続けたカラダに飽きて、身長を高くしたり、目や髪の色を漫画のような奇抜なものに変えたりすることが多いのだが、それと比べるとあまりに反応が乏しい。初期のSiriでももう少しマシな回答パターンを揃えていたと聞いているのだが。なんて目の前のお客様には到底言えないような言葉が頭をめぐる。 いや、もしかすると自分のヒアリングの仕方が悪いのかもしれない。しかし、キシモトのカラダには膨大なデータから最適な接客を瞬時に判断するAIが搭載されている。それを用いて完璧な対応をしているわけだから、お客様である男性に不快な思いをさせているという可能性は極めて低いはずだ。それなのに、男性はこの反応である。 何か不満があるのか?本当に大丈夫なのか?もしくは彼に言葉の裏側には隠されたニーズでもあるのだろうか…? 一抹の不安を覚えつつ、キシモトはヒアリングを進める。
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