とんとんさん ニ

3/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
思えばその日からだった様に思う。 ミヤの様子が段々と変化をしてきたのは。 どちらかと言えば焼いた魚が好きだったミヤは、肉や刺し身を好んで食べるようになった。 身についたばかりの食事のマナーも悪くなり、特に犬食いが顕著だった。 何度言い聞かせても舌で皿を舐めるのは変わらず、どうしたものかと育児書を読み漁った。 「どうしてお行儀悪いことをするの?そんなんじゃ、立派なお姉ちゃんになれないよ」 立派なお姉ちゃんになれない、は弟か妹が欲しいミヤに効果てきめんだった躾の文句だ。 「いいの、妹はとんとんさんがつれてきてくれるんだから」 ミヤはそう言うと、しまった、という顔をした。 「ママ、今のきいてない!きいてないよね!ミヤゆってない!」 ミヤはそう言うと、ご飯を中断して布団の中に入っていった。 何の事なのだろう。 とんとんさんが、妹を連れてくる… その意味を考えると、背筋に寒いものが走った。 次の日、私は子どものお迎えの時間に、保育士さんに尋ねてみた。 「あの、とんとんさんって最近園で流行っているんですか?」 すると、保育士さんは怯えたような顔をした。 「ええと…私には少し分かりません…」 困っている顔の保育士さんの後ろから、ミヤがやってきた。 ミヤは無表情に私を見つめていた。 その顔にぞっとしたが、私と目が合うと、ミヤはにっこりと笑って手を繋いできた。 「お母さん、お家に帰ろう!早く!」 ミヤは、私の事を普段「ママ」と呼ぶ。 わが子が急に見知らぬ子どもの様に思え、思わず手を振り払ってしまった。 「…ママ、お家に帰ろうよ…」 泣きそうな顔で私の顔を覗いてきたミヤは、間違いなく私の子どもだ。 私はミヤの頭を撫でて、小さく謝った。 園の門を通り抜ける時に、ふと後ろを振り返ってみた。 園の窓から、子どもたちが一斉に私とミヤを見つめていた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!