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思えばその日からだった様に思う。
ミヤの様子が段々と変化をしてきたのは。
どちらかと言えば焼いた魚が好きだったミヤは、肉や刺し身を好んで食べるようになった。
身についたばかりの食事のマナーも悪くなり、特に犬食いが顕著だった。
何度言い聞かせても舌で皿を舐めるのは変わらず、どうしたものかと育児書を読み漁った。
「どうしてお行儀悪いことをするの?そんなんじゃ、立派なお姉ちゃんになれないよ」
立派なお姉ちゃんになれない、は弟か妹が欲しいミヤに効果てきめんだった躾の文句だ。
「いいの、妹はとんとんさんがつれてきてくれるんだから」
ミヤはそう言うと、しまった、という顔をした。
「ママ、今のきいてない!きいてないよね!ミヤゆってない!」
ミヤはそう言うと、ご飯を中断して布団の中に入っていった。
何の事なのだろう。
とんとんさんが、妹を連れてくる…
その意味を考えると、背筋に寒いものが走った。
次の日、私は子どものお迎えの時間に、保育士さんに尋ねてみた。
「あの、とんとんさんって最近園で流行っているんですか?」
すると、保育士さんは怯えたような顔をした。
「ええと…私には少し分かりません…」
困っている顔の保育士さんの後ろから、ミヤがやってきた。
ミヤは無表情に私を見つめていた。
その顔にぞっとしたが、私と目が合うと、ミヤはにっこりと笑って手を繋いできた。
「お母さん、お家に帰ろう!早く!」
ミヤは、私の事を普段「ママ」と呼ぶ。
わが子が急に見知らぬ子どもの様に思え、思わず手を振り払ってしまった。
「…ママ、お家に帰ろうよ…」
泣きそうな顔で私の顔を覗いてきたミヤは、間違いなく私の子どもだ。
私はミヤの頭を撫でて、小さく謝った。
園の門を通り抜ける時に、ふと後ろを振り返ってみた。
園の窓から、子どもたちが一斉に私とミヤを見つめていた。
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