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ドアを開けたまま、用を足す。まるで後追いの乳児とその母親だ。放尿の音が止まると、トイレの前で待っていたアヤが中に入ってきて、今しまおうとしている排尿を済ませたばかりのリョウの陰茎の前に跪いた。
「な、にしてんの」
リョウの戸惑いをよそに、アヤの顔が近づいて、口を開くーー
「ちょ、待って!汚いし!とにかくベッド戻ろ」
リョウが慌てて腰を引き、無理やりスウェットの中にしまい込んだ。
「じゃあ今からしよ」
アヤがリョウの手を引いてずかずかとベッドへ戻り、二人してベッドにダイブした。
「さっきしたとこやん」
「あんなんじゃ足りない」
素直になっても絶倫に変わりなし、リョウは妙に納得した。
「言うても、いっつも朝起きたらまたするやろ?今はとりあえず寝よ?」
「繋がってなきゃ不安で眠れないんだよ……」
消え入りそうな声でそう言うと、アヤはくるりと背を向けてしまった。
「じゃあ、こうしとこっか」
優しい声と、後ろから暖かい腕に抱きすくめられ、アヤはようやく少し落ち着きを取り戻したのか、うっとりと目を閉じた。
「ちょっと落ち着いた?」
耳元でリョウが囁くと、少しピクリとした後、こくんと頷く。
「俺がおらんと、そんなに不安?」
さらに質問すると、恨めしそうな目で振り返ってきた。
「どうしてそんなこときくの」
「あ、ごめん……」
「いても不安、いなくても不安、どうしたらいいのかわからない」
意外な回答にリョウは驚き、次の言葉を待つ。
「いないとずっとこのまま離れていくのかなって不安、いると嫌われないか不安、こんななら付き合わなきゃよかった」
「別れる心配やら嫌われへんかの心配なんかしてんの?」
「俺なんていつ愛想尽かされてもおかしくないし、全然リョウのこと上手く愛せないし……」
「付き合わんかったらよかったって、ほんまに思ってる?」
「それ、は」
「やっぱり一人でおるほうがラク?」
「違う、もう一人はいやだ……」
向き直ったアヤがしがみついて来る手の力が強すぎて、リョウの笑顔が少し歪んだ。
「嫌ったりせえへんって。俺から別れることもないよ」
アヤの髪をすくい上げる。さらさらと指からこぼれていくのが気持ちいい。
「そんなのわからないだろ」
「わかるよ。俺アヤのこと大好きやもん」
「い、今はそうでも。もっと醜い部分とか見たら、いくらリョウでもわからないだろ……」
「まだこれ以上醜いとこあんの?」
「どういう意味だよそれ」
「あるなら見せといてよ」
「……さっきみたいなのだよ」
「さっきって?」
「……リョウが好きすぎて離れられないこととかだよ。こんなみっともなくって重たすぎてカッコ悪くて恥ずかし」
自棄になってまくしたてるアヤの唇に、リョウはそっと人差し指をあてた。
「俺……今の言葉でもう死ぬまで無償の愛を捧げ続けられるわ」
「そうなの……?」
「ただ見くびらんとって、そう簡単には別れたれへんからな」
「うん、絶対離さないで――」
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