私の心は燃えている

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私の心は燃えている

「わあ! ポインセチアやん、綺麗やなあ」 リョウが目を輝かせる。 「飾ってあったのをみんなで分けたんだ」  アヤはホテルの支配人。クリスマス当日の夜にはクリスマスの飾り付けは撤去し、一斉にお正月ムードに変わる。ツリーをしまい、赤と緑から赤と金のコーディネートに変わるのだ。門松や鏡餅を出すのは、まだ少し先。 「この赤がいかにもクリスマスって感じよなあ。ちょっと他にはない、独特の赤やんなあ。花も葉っぱみたいでおもしろない?」  やんなあ、と同意を求められても、おもしろない?と疑問を投げかけられても、アヤはそんなこと全然感じていない。どうリアクションしようか考えているうち、結果的にスルーとなってしまった。だがリョウはそんなこともう慣れっこで、なんとも思っていないようだ。  あちこちの角度からポインセチアを眺めていたリョウは、おもむろに一房手折った。そしてアヤの綺麗に後ろへなでつけた素直でつややかな黒髪をくしゃくしゃと乱したかと思うと、左耳の上辺りにポインセチアを飾った。まるでハワイの女性がプルメリアを髪に飾っているように。 「何してるんだよ」  さすがのアヤも面食らい、払いのけようとする。 「アヤの黒髪にこの赤、映えるんちゃうかなって思いついて」 「だとしてもこんな」  まだ納得いかない様子のアヤを気にもとめず、リョウは満足そうにそんなアヤを眺めている。 「やっぱり思た通り、よう似合う」 「目か頭、おかしいんじゃないの」  不服を露わにして言うアヤの左耳にリョウの顔が近づき、花の香りを嗅ぐような仕草をした。そっとポインセチアを手にするときにはアヤの耳にじかに触れ、香りを嗅ぐときには熱い吐息が何度となく耳にかかった。 「なあアヤ、ポインセチアの花言葉って知ってる?」 「……あれだろ、『祝福する』とか『聖夜』とかクリスマスっぽいやつ……」  花などに微塵も関心がないアヤがなぜ花言葉まで知っているかというと、職業柄である。客からどんな話題を振られてもいいように、学校の勉強とはまた異なった知識や雑学は人並み以上に身につけている。  それはさておき、アヤの耳がポインセチアのように赤くなってきた。 「それもやけど、まだあるねん」  リョウはにんまりと笑うと、耳のすぐそばまで口を近づけて、ゆっくりと、内緒話のように囁いた。 「『私の心は燃えている』」  アヤはのけぞり、細い体をびくりと震わせた。 【MerryChristmas!】
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