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夕食は近海で採れたての魚介類、地域の厳選食材など、海の恵みと旬を味わう絶品のコースだった。
「そうそう、ここで食べた魚めっちゃ美味しかったんやわ。思い出すわあ」
思い思いに舌鼓を打ち、食を堪能し、部屋に戻るとすっかり日は暮れていた。窓の外から見えていた空色・水色の世界は、空も海も一緒くたに濃紺へと塗り替えられていた。着替えやタオルを手に取るとすぐまた部屋を出て大浴場に向かい、露天風呂を満喫した。
「ええ湯やった~。極楽極楽」
浴衣姿となったふたりが再び部屋に戻ると、程なくしてドアをノックする音。驚くリョウを尻目に、まルでくるのを知っていたかのようにアヤがすっと立ち上がってドアを開けた。
「ルームサービスです」
小林が運び込んできたワゴンには、シックなスクエア型のバースデーケーキとシャンパン。ケーキにはきちんとチョコで名前まで書かれており、こんなの絶対予約しておかないと用意してくれるはずがない、とリョウは驚く。
「えっ、ええっ! 俺こんなん頼んでへんけど」
それもそのはず、今回も旅の手配は全てリョウが行ったのだし、アヤには今朝出発するまで行き先を告げていなかったのだから。
「元副支配人権限だよ」
「チェックインされてすぐに話を聞いて、急いで手配させていただきました!」
小林は祝う気満々の笑みでふたりにグラスを手渡した。そしてシャンパンを注ぐと、邪魔者は早々に、と退散していった。
「えええ……」
リョウは面食らった様子で、グラスを持ったまま呆然としている。
「気に入らなかった?」
「ううん! めっちゃ嬉しいで! ただ……アヤがこんなことするやなんて、意外すぎて……」
これまでサプライズと言えばリョウ、だっただけに、リョウの驚きも無理はない。
「めっちゃ失礼な言い方やけど……こんなんできるほど頭回るようなってんなあって感動してる……」
「ほんっ、とに失礼だな」
目頭を押さえて感動するリョウにアヤが舌打ちする。
「うそうそアヤごめんて。ありがとう、最高の誕生日やわ」
「誕生日おめでとう」
ようやくふたりのグラスが触れた。
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