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左右の大きさが違っているし、穴の開いた部分があるし、編み目はボコボコしている。それでも両手にはめてみれば、世界に一つだけの手袋は温かくて、嬉しくて、今すぐ誰かに見せたい気分だった。
次の日、わたしはその手袋を履いて学校にいくことにした。
まじまじと見なければ下手な編み目は分からないだろう。「わたしが作ったの!」と声高に叫びたいような高揚感があったが、海世ちゃんのマフラーを見た後ではやっぱり少し恥ずかしかった。
次はもっと上手に作って、みんなを驚かせたい。そんな風に思いながらその日は一日ご機嫌で過ごすはずだった。
学校には時々、家からお花を持ってくる子がいた。
家の庭に咲いた花を持ってきて教室に飾るのだ。
その日はあの毛糸の花が花瓶に活けられていた。
わたしの手袋によく似た色。
「これ、毛糸の花だよね!」
「え? う、うん、ケイトウの花」
「え?」
わたしは海世ちゃんと顔を見合わせた。
その時たまたま横にいた男子がプッと吹きだした。
「毛糸だって。まさかこの花が毛糸でできてると思ってんの?」
「そんなわけないじゃん!」
この時点でまだ何を笑われているのか分かっていなかったわたしは、思いきりその男子を睨んだ。
「唯衣ちゃんはケイトウって言ったよ」
海世ちゃんが男子に向かって言う。
ケイトウ?
毛糸じゃなくてケイトウ?
その男子はわたしの横を通り抜けざまに、結んでいたわたしの髪を引っ張った。
「とさか頭」
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