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あれから二十年。
おばあちゃんがあの世へ旅立った。
フラメンコのお人形はわたしの手元に遺された。
色褪せた赤い毛糸のドレスを指でなぞる。わたしはふと思いたった。
このお人形に新しいドレスを編もう。
何故だかは分からないけれど、そうすれば迷いが吹っ切れるような気がしたのだ。
わたしには結婚を考えている男性がいた。
小学校からの幼なじみ。あのとさか頭と言ってわたしをからかった男子だ。
彼の家は大きな農園で、結婚すれば当然その農園を手伝うことになる。
けれどわたしには夢がある。
一廉の人間になりたい。ずっとそう思ってきた。
平凡な主婦で一生を終わりたくない。
六年間スペインでフラメンコを習った。プロとして舞台に立ち始めた時、おばあちゃんの具合が悪くなり、お母さんも腰を傷めた。介護の為に呼び戻されたわたしは、幼なじみの健と再会して付き合うようになった。
健は実家の農園を継いで、何人もの人を雇う会社の社長になった。
わたしは赤い毛糸で編んだお人形の服を着せ替えながら、まだ迷っていた。
おばあちゃんの作ったドレスに比べて、不格好なそれはまるでわたしそのもの。
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