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不釣り合いな夢を背負ってみんなの笑い者になっているピエロのようだ。
今更スペインに戻ったとして、三十を過ぎたわたしがいつまで踊れるだろう。
その後はどうするのか。
健と結婚して子どもを育てながら、フラメンコ教室を開くという道だってあるかもしれない。
新しい夢を見つける時がきたのかもしれない、そんなふうにも思えた。
「プロポーズの答え、聞かせてくれる?」
健は緊張した面持ちでわたしの答えを待っている。
用意してきた答えを告げるだけなのに、上手く声が出せそうになくてグラスを引き寄せた。
その一瞬の間で、健はわたしの中に残る迷いに気付いたのだろう。
「成人式の二次会でさ、唯衣がフラメンコをちょっとだけ踊っただろ?
あの時、すげぇって思った。俺の知ってた間抜けな唯衣が、いつの間にか大人になってめちゃくちゃ輝いてた。正直負けてらんねぇって思ったよ。それから俺も農園をデカくしてやろうって気になったんだ」
その言葉に、わたしの胸が熱くなった。わたしを見てくれていたことに、認めてくれる人がここにいることに。
その瞬間にわたしの中に新しい夢が芽生えた。
だけど、まだ健には内緒だ。誰かの夢を支える、それもまた素敵な夢だって思えたこと。
「間抜けは余計だよ!」
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