プロローグ

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 鈍色の空からはらはらと綿雪が舞い降りている。  黒壁の洋館の中庭。  巨大な岩から切り出され、台座と一体化した柩は、雪が触れても溶けないほど冷えきっている。  柩に横たわった遺体の頭の方から一人の少女が近づき、手にした鈴を遺体の左右の耳元で振った。  小さく単調な音色が遺体をそっと撫でるように流れては、儚げに消えていった。  少女が柩の前にひざまずき、微かに唇を揺らしながら祈りの言葉を唱え始める。  中庭の隅で少女の様子を見守っていた仮面の者達が、手に手に銀製の花瓶を捧げて柩に近づき、その花瓶から水を注いでいく。  柩が水で満たされたとき、少女は祈りの言葉を唱えるのをやめ、天を仰いで叫んだ。 〈開きなさい〉  少女の言葉に応えるように、遺体の鼻と耳から泡が漏れ始める。そして大きく息を吐いたように口から出た泡が水面で破裂した刹那、柩の水は血のように赤く染まった。  
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