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数日降り続いた雪に覆われた、どこまでも白い景色が窓の外を走り去っていく。
「どこへ行くんですか!」
松宮庸介は隣でハンドルを握る河井に尋ねた。返事はなく、河井は前方を凝視したまま、少しアクセルを踏んだ。加速の際の、座席に押しつけられるような、不快な圧力に松宮は苛立ちを抑えられなくなっていた。
「どういうつもりなんですか!」
「うるさい!」河井は松宮へ視線をやることもなく怒鳴った。そして、
許さない……まだ間に合う……と、うわごとのように繰り返し呟いた。
正気を失っているとしか思えない。松宮は、クソっと車の天井を殴りつけた。河井の行動は常軌を逸していた。
二人は刑事だった。
数時間前、偶然通りかかったコンビニで逃走する万引き犯に遭遇して追跡した。そこまでは、どうということもない事件だったのに。
行き止まりの路地で、追い詰めた犯人が振り向いたとき、河井は犯人の顔を見て金縛りにあったように固まった。
「大友博史」
河井は叫ぶと同時に拳銃を抜いた。
次の瞬間、予想だにしなかった展開が目の前に広がった。
大友と呼ばれた男は、懐からナイフを取り出すと、おもむろに自分の喉に押し当てた。
躊躇することなく切り裂かれた首から、恐ろしい勢いで血潮が吹き出した。
悪夢のような光景の後、河井は応援を呼ぶこともせず、大友の死体を車のトランクに押し込み……
今も走り続けている。何時間も。
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