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蛇行する山道は、まるでメリーゴーランドに振り回されているようで、松宮は軽い吐き気を感じた。
乗り物酔いの一歩手前で、ようやく河井はブレーキを踏み込んだ。
「降りるぞ」
河井は独り言のように短く告げた。
車を降りると、目の前には森が広がっていた。鬱蒼とした雰囲気が雪化粧のせいで幾分和らいでいるようだった。
森の中に続く道は、立ち入り禁止区域、という看板で封鎖されていた。
河井はすでにトランクに手をかけていた。松宮は慌てて取りすがるように、トランクを抑えた。
「マジで何考えてんすか」
松宮の責めるような口調に、河井は舌打ちして、若い後輩刑事を突き飛ばした。
松宮が怒りを滲ませた表情で先輩刑事に突っ掛かろうとうとした時、開かれたトランクから血の臭いが溢れ出た。
「説明してもらえませんか」
精一杯感情を抑えて松宮は言った。
しばらく沈黙したまま松宮を見据えていた河井が、口を開く。
「こいつは、大友博史だ」
記憶をたどる必要もないくらい、その名は松宮の意識にもしっかりと刻まれていた。
七年前、通学途中の小学生の列を襲い、子供六人を含む十四人を死傷して逃走した通り魔殺人犯だ。
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