蘇生案件:通り魔連続殺人犯

6/55

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/220ページ
 松宮の声は、目の前の森に跳ね返されて、二人の間に木霊したように感じられた。  河井の視線はしばらく周囲をさ迷い、再び松宮の方へ向くことはなかった。 「お前は帰れ」  突き放したような言葉を吐くと、河井はトランクから勢いよく大友の死体を引っ張り出した。ブルーシートにくるまれたそれは、鈍い音をたてて地面に落ちた。 「帰れるわけ、ないでしょ」  松宮は死体を挟んで河井と向かいあった。 「どうするつもりなんですか?」 「帰れ。今日のことは報告するな」  河井は視線を死体に落としたままだった。 「どうしちゃったんですか、先輩?」  何も答える気がないといった様子で、河井は懐から携帯電話を取り出した。  反射的に松宮は河井の手をはたいていた。河井の手の中から弾き出された携帯が、数メートル横の雪の中へ落ちていった。 「まだ間に合う。たが、お前は関わらなくていい」 「もう手遅れですよ。河井さんがそいつを連れて消えたら、俺も共犯ですから」  松宮の言葉には河井を非難する響きがあった。 「間に合う、と言ったのは、そういう意味じゃない」  河井は静かに答えた。表情はさっきより幾分落ち着いていた。 「俺は消えたりしない。こいつも必ず連れて帰るつもりだ」 「言ってることが、分かりません。全然分かりません」  どうするつもりなんですか?  なぜか、言葉はもう出て来なかった。  少しの沈黙の後で、河井は口を開いた。 「殺し屋、っているだろ?」 「いたら困りますよ」 「人を殺す商売を殺し屋っていうなら、死んだ奴を生き返らせる商売は、何ていうんだろうな」  は?「何の話してんですか」ふざけるなよ。 「信じ難いが、いるんだよ」 「何が?」  河井は携帯の落ちた方へ歩き出した。そして携帯を拾い上げると 「黄泉返らせ屋、かな?」松宮に向かって尋ねるでもない様子で言い、ゆっくりと携帯を耳に持っていった。 「今から呼ぶ」
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加