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山際綾子は部長には心を開いている。
その部長が今日も天気の話からチョコに持っていってくれた。
グッジョブ。
「山際君は今までチョコを誰かにあげたことがあるのかね」
「ないです」
即答。だろうな、とも思っていたけど、壁が厚い。
「好きな人とかいないのかね」
「ないです」
早い早い。食い気味の即答。もはや、「ないのかね」の、「ね」の時点で「ない」を言っている。
柏木はここ数年、彼女を作っていない。作れない。山際綾子と比べてしまうし、一緒にいる妄想ばかり繰り返しているからだ。
「山際さん、チョコほしいなあ」
柏木が軽い調子で言ってみた。
本当はめちゃくちゃ勇気がいった。手には汗がにじんでいた。
けれど、彼女はきっ、とこちらをにらみつけた。
「私があなたにあげてメリットがあるんですか?」
「こらこら、山際君、恥ずかしいのはわかるがそれはないだろ。柏木君は、社内ではモテモテなんだぞ」
部長のフォローが痛い。
でも、モテモテなのは本当だ。
対人スキルは小学校のころに比べて格段とあがっている。
それを買われて営業職に現在ついている。
対人スキル高い=好感を持たれやすい=モテル。
決して、イケメンではないが、フツメン程度で女性の印象はいい。
まあ、軽い調子でしかチョコ欲しい、を言えない時点でヘタレなのは致し方ない。
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