第1話:支配者の決意

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 キメラという単語を聞いたことがあるだろうか?簡単にいえば多種族の生物同士の遺伝子を持った生物のこと。その種類は様々だ。馬や鼠、猿に猛獣の類もいる。しかし、人間と動物の配合種は存在しない。なぜなら反倫理的な行いだと言うことで禁止されているからだ。その掟を破って実験に着手した研究者がいた。彼の名は音無紅夜(おとなしこうや)。常に白衣を纏い、とある箱根の山奥で屋敷を構える者の名前。特異細胞という特殊な細胞を用いることにより、人間をベースとしたキメラやこの世には存在しないであろう身体能力を持った生物の生成に成功。そのキメラたちを彼は新生物(ネオ・キメラ)と名付けた。  2020年、東京オリンピック開催直前の日本はこれまでにない熱気に包まれていた。波のように押し寄せる観光客を狙った商売や地域の伝統文化を広める動きが活発になり、日本の未来の発展に大きく貢献すると誰も疑わなかった。  世界各国から選手と観光客たち、それに国を代表する要人たちが集まる輝かしいオリンピック開会式。会場は満員で中央のフィールドには国旗を掲げた選手たちが誇らしげに整列していた。そんな中、観覧席で5つの銃声が新国立競技場に鳴り響く。  5人組のテロ集団だ。  会場は混乱に包まれ、警備員たちが思うように対応できない状況になりテロ集団を速やかに排除することはできなかった。我先にと会場から出ようとする観客たちで出入り口が塞り始めた時、5人のテロリストが手のひらに乗るくらい小さなキューブを空に向かって同時に投げた。  それは視界が真っ白になる程の閃光だった。怒鳴り声、悲鳴、鳴き声、会場に響いていた叫び声が瞬時に鳴り止み静寂が訪れた。そして新国立競技場は原型を留めておらず、駆けつけた救援部隊の報告によると生存者はいなかったという。    後に今世紀最大のテロと呼ばれるようになったこの事件は日本だけでなく世界情勢に多大な影響を与えた。国家の代表者を失った各国はその空いた席を埋めるための作業に勤しみ、同時にテロ実行犯たちの素性を他国と協力して解明しなければならなかった。  
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