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華は痺れた手をゆっくりと動かし、彼の服の袖をギュッと掴んで縋りついた。
「わたし…、身体変なの…。あ、熱くて…、おかしく、なりそう…。助けて…。」
彼は目を細め、華の懇願する姿を見下ろした。
「吸血鬼の牙には快楽を誘発させる作用がある。媚薬のようなものだ。それも、強力な。俺なら、その熱を収められる。…助けて欲しいか?」
彼の問いにコクコクと頷く。
「いいだろう。ただし、条件がある。俺と契約しろ。」
「契約…?」
「そうだ。お前は今日から俺の餌だ。その血を俺に差し出せ。俺が望めばいつでも血を吸わせるんだ。」
そう言って、彼は華の指を甘噛みする。華はあ…、と甘い声を上げる。
「お前にとっても悪い話じゃないと思うぞ。吸血鬼である俺の牙でいつでもこの快楽を味わえるのだからな。人間の男では到底与えることのできないものだ。俺以外では満足できない身体になるだろうな。それだけじゃない。お前が俺の物になって従順な餌になるのなら守ってやる。今日の男達みたいな輩からもな。俺程に頼りになる男はいないと思うぞ?それとも、貧弱な人間の男の方がいいのか?」
華は身体の疼きに耐えながらそれでも迷った。
―斎藤君の…、モノに?でも、彼は私を好きなんじゃない。ただ、食糧として見ているだけで…。そんなの…、
「嫌、そんなの嫌…!」
「何だと?俺を拒むのか?」
「餌なんて、嫌…!私は…、私と同じ気持ちを斎藤君にも返して欲しい!私だけの一方的な思いだけなんてそんなの辛すぎる…。私は斎藤君が好きなのに…。」
ぽろぽろと涙を零す華に彼は息を呑んだ。
「何、言って…。お前、俺の正体を知ったんだろう!俺は吸血鬼だ。人間の血を啜る化け物なんだよ!お前が好きな斎藤千秋は偽物に過ぎない。これが俺の本当の姿だ。お前が好きになった斎藤千秋とは似ても似つかない。それなのに、何でお前は…!」
華は斎藤に手を伸ばし、チュッと頬に口づけた。
「そんな事ない。同じだよ…。斎藤君はいつも優しかった。私に勉強を教えてくれたり、ノートを貸してくれたり、落とした本を拾ってくれたり、レポートの課題も手伝ってくれたりした。今日だってあの怖い不良達からも守ってくれた。吸血鬼であることにはびっくりしたし、血を吸われたのは少し怖かったけど…、それでも…、斎藤君を好きだという気持ちに変わりはないよ。もっと…、本当のあなたを知りたい…。」
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