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華は顔を赤くする。不意に斎藤は華の傍に落ちていた本を手に取った。
「これ…。さっき、講義でやっていた内容の…?」
「あ…。じ、実は…、もう少し自分なりに復習してみようと思って…。あの講義だけだと理解できないこともあったから。」
「もし、良かったら、俺のノート貸そうか?」
「え?」
「助けてくれたお礼に。俺は今日やったことは大体頭に入っているから。これ、ノート。返すのはいつでもいいから。良かったら、使うといい。」
「い、いいの?」
勿論、と頷く斎藤に華はノートを受け取った。斎藤は用事があるからこれでと帰ってしまったが華はノートを大切そうに抱き締めて軽やかな足取りで帰り道を急いだ。
「斎藤君のノート…。斎藤君、男の人なのにとっても綺麗な字…。ノートもちゃんとまとめられているし、分かりやすい…。」
華はノートを写しながら楽しそうに鼻歌を口ずさんでいた。
「斎藤君!」
華は斎藤を見かけると声を掛けた。今までは切っ掛けがなかったが今ではノートが二人の関係を繋いでいる。華は溢れんばかりの笑顔で斎藤に近づいた。
「このノートとっても見やすかった。ありがとう!すごい助かった!」
「役に立ったのなら、良かった。」
「あ、あの…、斎藤君。もし、良かったら…、ノートを貸してくれたお礼にお昼ご飯でも奢らせて。何か食べたいものがあれば何でも言って!」
多少強引に華は彼を食事に誘った。
―ああ…。幸せ…。目の前に大好きな彼がいる。
学食のオムライスが高級なフレンチよりも美味しく感じる。にこにこと幸せそうに笑顔を向ける華に対して彼はもくもくと食事をするだけだった。それからは華は必死にアプローチをした。周囲が見ていても分かりやすい位のアプローチだったがそんな事は構っていられなかった。彼とは連絡先も交換し、デートをする機会もあった。が、どうも彼はそういうのには奥手のようでそれらしい素振りを見せなかった。けれど、華を嫌っているわけではなさそうだった。彼に勉強を教えて貰ったり、一緒にご飯を食べに行ったりするその時間が華にとっては最高に幸せな時間だった。
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