0人が本棚に入れています
本棚に追加
休憩中のサナに、何の気なしに尋ねたことがある。
「うーん」
サナが考えている様子をじっと眺めた。人喰い昆虫もいない、同僚や家族が死んでいったりしない、平和な世界だったら。
しばらくして彼女は答えた。
「アイスクリームが食べたい。おなかいっぱい」
「……」
本当に、変な子だなと思った。
『先頭部隊、位置についてください』
今日も司令塔からアナウンスが流れる。
開き始めるゲート。視界一杯に入ってくる街中の巨大な虫。
固い金属製の全身スーツに頭まで覆われた俺たちは、ガチャリと銃を構える。
「秋篠さん」
突然、隣でかぽっとヘルメットを外したサナに俺はぎょっとした。もうすぐ部隊が発進するというのにそれは危険な行為すぎる。
サナは丸い瞳で俺を見て言った。
「わたしのこと、まだ、好きですか」
「え」
サナと出会ってから、三年が経っていた。
許嫁のことは、正直よく知らない。よく知らないけど、サナがそいつといつか結婚するんだってことはわかっていた。
それでもずっと俺は、三年間ずっと、サナのことが好きだった。
(一度もそんなこと、言ってないのに)
俺が呆然としているうちに、『部隊発進まで、10、9……』というアナウンスが無情にも流れ始める。
『8、7、6……』
最初のコメントを投稿しよう!