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サナは俺を射抜くように見つめていた。どうしよう。なんて答えればいい。
『5、4、……』
まだ何もしていないのに汗が流れる。俺は今日、生き残れるんだろうか。
『3、2、1……』
そういえば前にどこかで、「この戦争が終わったら、結婚しよう」というセリフを聞いたことがある。いわく、それを言った奴は戦争中に死んでしまうというジンクスがあるらしい。
俺だったら。
愛する人を失った彼女に、それでも好きかと己に聞いた彼女に、何を、言うべきなのか。
もう時間がない。
『0』
と同時に俺は反射的に答えた。
「……はい」
そうこうしているうちにゲートが完全に開き、俺たち部隊は前に押し出されて戦場へと飛んだ。
サナのことを見ている暇すらない。今日生きられる保証もない。
それでも、俺はサナのほうへ手を伸ばした。
虫との戦闘に入る直前、一瞬だけサナと手を繋いだ俺は、分厚いスーツ越しだったけど、それでも確かに熱を感じたのだ。
さっき、ヘルメットを被りなおす直前のサナが、はにかむように微笑んだのを俺は知っている。
「この戦争が終わったら」なんて野暮なことは言わない。
この瓦礫まみれの世界で、確かなものだけを掴むために、今日も俺は彼女と生きる。
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