第五章 恍惚と不安

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「陸―。お友達がいらっしゃたわよ。降りて来なさーい」と、お母さんが二階の陸くんを 呼ぶ。  ちょっとの間があって、階段から陸くんが降りてきた。露骨に嫌そうな顔をしている。 「どうして、ここが分かったの?」  挨拶も無しに陸くんが話を始める。その様子を見て、陸くんのお母さんがビックリした 顔になる。 「歩いて探してたの。そしたら、白いカラスを見つけて……。後を追って来たら……」 「なるほど。それはご苦労な事で。だけど、天野さんが来た理由は想像がつく。そして、 僕には何も話す事は無い。以上」  そう言い残して、陸くんは私に背を向け、二階に上がっていく。 「陸。なんてこと言うの、お客様に失礼よ。陸、戻ってらっしゃい。陸」  お母さんが、大慌てで陸くんの後を追って、二階に上がる。  二階で陸くん親子の間で悶着が続く。  ややあって、お母さんが、すまなそうな顔をして降りて来た。 「ごめんなさいねぇ。あの子、今は誰にも会いたくないって……」 「そうですか……」 「ホントにごめんなさいね。いつもは、あんな子じゃないんですけど。あの、何か言伝が あるなら、伝えておきましょうか」 「いえ。あの。また、来ます。今日は、突然お邪魔して、申し訳ありませんでした。失礼 します」  そう挨拶して、佐藤家を辞した。  また来ます。  そう言ってみたけれど、私には陸くんを呼び戻す、何のアイデアも持っていなかった。  嗚呼、私はどうしたら良いんだ?
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