第五章 恍惚と不安

3/19
前へ
/221ページ
次へ
 *****  ソラシドレスキューが活動を開始して一週間。  方々で、色々な種類の活動をしている内に、その親しみやすさのせいなのか、ちょっと これは、と思うような救助要請が出始めた。  寝坊して、飛行機の時間に間に合わないので、空港まで運んで欲しい。  キャンプで出たゴミを運ぶのが煩わしいので、代わりに処分して欲しい。  こちらは、真剣に活動しているのに、こんな不埒な要請は救助に値しない。  四人とも同じ意見で、無視する事に決まった。  *****  そんな中で、事件は起こった。  飼い犬が、獣の罠に嵌って木から宙吊りになっている。  そんな救助要請があった。  いつもの通りに陸くんと一緒に現場へ飛ぶ。  救助要請と共に送られて来た位置情報を元に、GPSで目的地を探す。  SNSで救助要請が来るようになってから、GPSを活用する方針にしたのだ。 「何か変だな」  目的地に近づいたところで、陸くんが声を上げた。 「何が?」 「飼い犬が、獣の罠に嵌ったって話だけど、目的地近くなのに、まだ町中だ」  たしかに鄙びた街並みではあるけれど、山の中ではない。こんな所に、獣など居るのだ ろうか? 「あの辺りだ」  陸くんが指さす先に学校らしき建物が見えた。校庭は雑草が生えるがままに生い茂り、 校舎の窓ガラスは全て目張りがしてある。廃校なのだろうか。  スピードを落として、慎重に近づくと、校庭の端で手を振る人物の姿が見えた。  その人物の側に、ゆっくりと着地する。  二十歳前後で、原色の派手な服装をしている。  その青年が、スマホで私たちの様子を撮影しながら近づいてくる。 「おぉー。スゲー。マジっ。ホントに来やがった」  と、のっけから嫌な言葉をかけてきた。 「あの。飼い犬が罠に嵌ったって話ですけど……」と問うと 「ああ、あそこ、あそこ」と青年が指をさす。  そこには、旗を掲揚するポールが立っており、その先端部には籠のような物が括りつけ られていた。よく見ると、その籠から犬が顔を出している。
/221ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加