第五章 恍惚と不安

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 不審に思いながら、ポールの上部まで飛ぶ。  籠と見えた物は、犬を入れて持ち運ぶためのキャリーバッグだった。  そのキャリーバッグが旗を掲揚するロープに結わえ付けられている。 「これ、あの男がやったんだよ、きっと」  ロープとキャリーバッグの結び目を解きながら、陸くんが呟く。  『あの男』は、私達の救助の様子を、ずっとスマホで撮影し続けている。  キャリーバッグの中の犬を落とさぬよう、慎重に着地する。 『あの男』が、スマホの撮影をしたままで私たちに近づく。 「これ、あんたがやったんだろ」  陸くんが、キャリバッグを男に差し出すと、中の犬は地面に飛び降り、一目散に逃げて いった。 「ああ。そういう事にしないと、お前ら来ねえだろ」  悪びれる事もなく、男が不遜な言葉を撒き散らす。  一瞬で頭に血が上る。 「あなた、自分が何やってるか分かってるの!? 私達、真剣なんだよ。他にも、私達に 助けを求めてる人たちが居たのに!」  私は男に食って掛かる。  けれど、男は我関せずで 「どーでも良いだろ、そんなの。それより、記念撮影お願いしまーす」 と、汚い言葉を吐き出した。  あのね。と、私が男に詰め寄ろうするのを陸くんに押しとどめられた。 「関わるのは止そう。戻ろう」  男は、そんな私達の様子も撮影し続けている。  陸くんが私に背を向け、私の両手を自分の腰にあてがう。 「飛ぶ!」  陸くんが叫ぶ。  いつもの条件反射なのか、自分でも意図せず空中に飛び上がった。  そのまま上昇を続ける。  わざわざ『あの男』の元に戻る気になどなれない。私は陸くんに促されるまま、岐路に ついた。 
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