第五章 恍惚と不安

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 私は空を飛びながら涙を我慢している。  悔しくさと、切なさと、虚しさが、心の中で渦を巻き、濁った塊になって、私の涙腺を 刺激する。  心無い人の偽情報に惑わされ、大切な時間を空費した。  偽りの救助に向かわなければ、本当に助けを求めていた人を救えたかもしれない。  騙された事が悔しい。嘘を見抜けなかった自分が悔しい。  そして何より、私の人の役に立ちたいという想いが、通じなかった事が悔しい。 「泣いてるの?」と陸くんが言った。  涙を堪え、「泣いてない!」と強がってみせる。 「天野さんは何も悪くないよ」陸くんが、優しく声をかけてくる。  その言葉で、涙が零れそうになる。 「泣いてなんかいない!」ともう一度強がってみせた。  けれど、胸の内から滲み出た滴のために、私の視界はいつのまにか曇っていた。  それから、15分ほど飛んで学校に帰り着いた。前が見えぬまま飛び続けて、よく帰投 できたものだと思う。  着陸すると同時に、私は出迎えたシーちゃんの肩にすがって泣き出しだ。  シーちゃんの顔を見たら、どうしても涙が止まらなくなった。 「ど、どうしたの?」とシーちゃんが驚くが、直ぐには答えられない。 「嘘の救助要請だったんだよ」と陸くんが代わりに応えてくれた。  シーちゃんに抱きかかえられながら、AI部室に戻る。  部室の椅子に腰掛け、シーちゃんに肩を抱かれたまま、涙を流しつづける。  レオタードの膝の部分に、涙の雫が悲しい花を咲かせる。 「美幸は悪くねえよ。騙した奴が悪いんだ。美幸が泣くことねえって」アッキーが慰めの 言葉を言う。 「そうじゃない。美幸は、自分の思いが届かないのが、悲しいんだよ」シーちゃんが私の 気持ちを代弁する。嗚呼、シーちゃんほど私の気持ちを理解している人は、他にいない。  私の肩にかかったシーちゃんの手を強く握る。  シーちゃんが私の髪を優しく梳る。
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