第五章 恍惚と不安

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 ピンク女って私の事じゃない。 「酷い……」思わず落胆の声がこぼれ出た。 「それをワザワザ読む事ねえだろうが。お前、どっちの味方なんだよ」  とアッキーが陸くんにくってかかる。 「味方とか敵とか、そんな事を言ってるんじゃないよ。こいつの真似をする奴が必ず出て くる。その事を言いたいんだ」 「何人出て来たって同じだ。そんな奴ら無視してやれば良い」 「どうやって?」 「あっ?」 「具体的にどうやって、本物と偽物の救助要請を見分けるの? そんなの文面を見ただけ じゃ分からないよね。そもそも、SNSの救助要請を信用するなんて、嘘つきが一人いる だけで、成立しないんだ」 「そんなこと言ったら何も出来ねぇじゃねえか」  アッキーは今にも陸くんに掴みかかりそうな勢いだ。 「そうだよ。何も出来ない。今回は、ブログのネタにされただけで済んだけど、嘘情報に 振り回されて、僕たちが遭難する危険だってあるんだ。嘘情報を選別する有効な手立てが ないんなら、ソラシドレスキューを止めようって、そういう話」 「何を!!」アッキーが陸くんの胸倉を掴んで捩じ上げる。  止めて、止めて。どうして、どうして。こんなことに……。  折角、次の一歩を踏み出す勇気が湧いてきたのに……。 「止めて。何で、私たちが喧嘩しなくちゃいけないの。仲間でしょ」  私は二人の間に割って入り、陸くんを捩じ上げていたアッキーの手を解く。  陸くんは、レオタードのレスキューマークに出来た皺を伸ばしながら 「止める……というのは言い過ぎたけど、暫く様子をみた方が良いんじゃないか?」 「……」 「ネットのニセ情報は、僕達だけではどうしようもない。僕達を騙すって事が、どういう 意味なのか、皆に考えて貰うのがいい」  陸くんはそう言い残すと、そそくさと着替えをして、部室を出て行った。  私の心に、冷たい風が吹き抜けた。
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