第五章 恍惚と不安

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 さて、陸くんの家の場所なのだが、多少なりともヒントがある。私が、初めて超能力を 発動させた日、私達は途中まで陸くんと同じ下校コースを歩いていた。だから、陸くんの 家は、私の家と同じで菅谷用水の西側の可能性が高い。徒歩での登校だから、学校からの 距離も見当がつく。  そんな訳で、菅谷用水の西側地区を、三人で手分けして捜すことになった。  さて、実際に捜索を始めてみると、言うほど簡単でないことが分かってきた。  佐藤という苗字を頼りに捜すのだが、標札を掲げている家は多くない。よしんば掲げて いても、家族の名前まで公開している家は更に少ない。  その数少ない『佐藤家』を見つける度に 「佐藤陸さんのお宅でしょうか」「ご親戚に佐藤陸さんという方は居ませんか」と尋ねて 回る。  十軒、二十軒と空振りを繰り返すうち、徒労感で歩みが遅くなる。  汗で重くなった制服のブラウスが、体に絡み付く。  夏の暑さのせいもあって、頭がボーっとしてきた。 「あー、疲れた」思わず独り言ちる。  疲労のために、頭も体もチーズフォンデュのようだ。今にもとろけだしそう。  少し休もう。そう思って、小さな公園のベンチに腰を落とした。
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