第五章 恍惚と不安

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 声の方を見る。  居た。  二階家のベランダの手摺りに白カラスが止まっている。  と、次の瞬間、ベランダの奥のサッシの扉が開き、陸くんが姿を現した。  陸くんは手摺りに止まる白カラスに、餌のような物を与えている。  ここが、陸くんの家なんだ。 「陸くん」とその名を叫ぶ。  私の声に気が付いた陸くんと目が合う。  陸くんは、いかにも迷惑そうな顔をして、扉の奥に引っ込んだ。  私は小走りで、その家の玄関に回る。  インタホンを押すと、暫くして、優しい顔の小柄な女性が現れた。陸くんのお母さんに 違いない。 「私、陸くんの同級生の天野美幸です。陸くんにお話しがあって伺いました」と用向きを 告げる。 「あら、まあ、それは。さあ、どうぞ、どうぞ」と玄関に招じ入れられた。  小ざっぱりと纏まった綺麗なお宅だ。
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