マスターはお見通し

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俺自身もひとつ頬張る、コロコロとイチゴの甘酸っぱさをひろげるその味はバーで飲んだカクテルと違い、よりいっそう甘く感じられた。 幸せそうに頬を緩ませる彼女に、あの時は引き出せなかった無防備な表情を見せてくれる幸福に、堪らなくなった。そして俺は気持ちが信号を送るがままに、姿形、感情全てを包み込むように両腕にしっかりと抱え込み、幸せを堪能する。 「凛、気づいたらさ、もう7年付き合ってたんだよな俺達。」 始まりを思い出して、彼女をもう一度抱き締めて自然とこの言葉が脳裏に浮かんだ。 「ずっと一緒にいたい。結婚しよう。」 彼女は照れたように額をぐりぐりと俺の胸に押し付けた後、そおっと俺の背中に腕をまわし頷いた。 「しよっか、結婚。」 ポツリと落とされたその声に、見下ろした彼女は、今まで見た中で一番に蕩ける微笑みを俺に送ったのだ。
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