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新しい冷蔵庫は、今までの冷蔵庫があった、キッチンの角に収まった。とても大きくなったように思っていたが、高さが大きく変わるために、横幅はそこまででもないらしい。
新品らしい、ときめきがある。
「ねぇ、手伝ってよ」
妻が僕を促した。言われるがまま、元の冷蔵庫に入っていた食材を新しい冷蔵庫に移す。冷蔵庫に入りきっていなかった野菜も悠々野菜室に入る。最後に、冷凍庫にたまっていた保冷剤を移し、元の冷蔵庫は、空になった。
「空だねえ」
妻は、仕事を終えたような風で言った。
「そうだね、あれ?引き取りは?」
僕はてっきり、新しい冷蔵庫と引き換えに古い冷蔵庫は引き取ってもらうのだと思っていた。でも当然のように、搬入をしてくれたお兄さんらは帰ってしまった。
「え、なんのこと?」
妻はわざとらしく惚けて、ニヤリと笑った。
「冷蔵庫ってね、搬出する前日にはね、電源切っておかなきゃダメなんだよ。でも、この冷蔵庫、さっきまでずっと電源つけていたでしょう?」
「…うん」
確かに、前に引っ越した時は早くに電源を切ったような気がする。いや、それはそうとして、じゃあ、引き取りはしないの、か?
僕の悩んでいる顔を見て面白がるように妻は笑った。
「お酒好きな私の小さな夢にね、お酒用の冷蔵庫!ってのがあるんだよね。ビールを沢山入れても困らないやつ」
「え、じゃあ…」
「うん、これは、お酒用でまだ使おうかと思ってるの、言うの遅くてごめんね」
僕は、まじまじと妻を見た。
「寂しそうだったからさ、ね」
「…ありがとう」
なんだか、ほっとしてしまった。
新しい冷蔵庫と、昔からの冷蔵庫。
僕はふたつを見比べて、どちらもいいね、と妻に笑った。
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