【プロローグ:狐の障り】第1話

2/3
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
私は急いでいた。兎にも角にも急いでいた。 あと一分半後に、片田舎に住む依頼人の元へと出発するバスが出てしまう。走りながら確認した腕時計に示されている秒針は無情にも進んでいく。 漸くバス停が見える所まで辿り着いたと思えば、停留所には既にバスの姿があった。少ない乗客を乗せ終えて扉を閉めたバスに私は必死になって呼び掛ける。 「あぁ~!待って、待って下さい!」 私の声は虚しく木霊するだけに終わり、時間通りにバスは出発する、・・・・・・かと思われた。 ガコンと嫌な音を立て一瞬バスの動きが止まる。その隙に不思議そうにハンドルや足周りを確認している運転手の視界に入る場所まで駆け寄った。 硝子張りの扉越しに手を大きく振ってアピールをすると、運転手はさも今気が付いたかの様に一つ頷き扉を開く。 一番後ろの席をなんとか確保出来た私は、背中の矢筒とベージュのショルダーバッグを下ろすと、手の甲で額にじんわりと掻いた汗を拭ってふぅ、と一息吐いた。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!