記憶

10/12
前へ
/12ページ
次へ
「俺がお前を好きだという気持ちを、大脳皮質に刻み込む。日記なんか見なくても、永遠に消えることのない記憶を、明日花の脳に植え付けるんだ」  海馬腫瘍障害は、海馬にある、新しい記憶のみに影響を及ぼす。なれば、定着した記憶を司る大脳皮質に『お前が好きだ』という楔を打ち込めばいいのだ、と悠馬は豪語している。荒唐無稽な解決案に、明日花はいくつもの疑問点が浮かんだ。 「もし、忘れちゃったら、どうするの?」 「何回でも告白する」 「……それでもダメだったら?」 「どちらかが死ぬまで繰り返す!」 「それ、一生付き合えないじゃん!」  明日花は正拳を突き出すが、悠馬はそれをなんなく受け止め、握りしめ、手の甲を優しくなでた。明日花の顔が紅潮した。  これ以上説得しても無駄だと判断した明日花は、手を握りしめられたまま、今日の日記をどう書いたものか、ぼんやり思案していたのだった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加