記憶

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 悠馬は、明日花の家の前で、腕を組み、仁王立ちで待っていた。心臓は、通常の二倍以上の速度で、全身に血を巡らせている。頭がくらくらしてきた。手術後の翌日とはいえ、遅刻ぎりぎりまで寝ている彼女に、愚痴の一つでも言ってやりたい。  早く、でてきてくれ。早く、早く。  扉がゆっくりと開くのが、確認できた。悠馬はすかさず、大地を揺らす勢いで近づいた。眼前に雄々しくそびえたつ大男を視認した少女は、喉の奥を「ひぅっ」と鳴らした。  悠馬は、乾燥しきった唇をなんとか動かし、挨拶をした。 「よ、よお、明日花。今日も遅いじゃないか」 「えーと、前畑悠馬……くん? おはよう」 「……っ! いや、悠馬でいいよ。ずっと前から、そう呼ばれていた」 「そ? じゃあ、悠馬、学校行こうか」  目頭が熱くなってきた悠馬は、それを誤魔化すため、大股で歩き出した。  ――分かっていた結末だ。何を期待しているんだ、俺は。根拠のない奇跡を信じて、期待して、本当に馬鹿丸出しだ。  背後から、明日花が走って近づいてくる気配がする。そして、明日花はさも当然かのように、悠馬の太い腕に抱きついた。 「ねー、歩くの速いよ。もうちょっとゆっくり、行こう?」 「あ、ああ。それはいいんだが、ちょっと離れてくれないか」  明日花は頬を膨らました。 「えー、付き合ってるんだからいいじゃん。……わわっ」  瞬間、明日花は自分の発した言葉に困惑し、体を離そうとした。だが、悠馬は逃がさず、彼女の肩を抱き込んだ。明日花は体をくねらせ、拘束から逃れようとしている。 「ごめん、今のなし」 「そう言うなって、俺ら恋人同士なんだろ?」  二人はじゃれ合いながら、歩み始めた。記憶の輪廻は続いていく。だが、二度と死ぬことのない想いが存在することを、少年少女が微かに証明したのかもしれない。
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