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初夏の到来を告げる生温い風が、ホバークラフト・バス乗り場でバスを待っている二人の頬を撫でた。悠馬の額には薄っすらと汗がにじんでおり、不愉快そうに顔を顰めた。悠馬は、自分より三十センチ近く背の低い明日花を見下ろした。明日花が視線に気づく。
「なに?」
「いや、お前長袖で暑くねーの?」
「別に。悠馬が暑がりなだけじゃないの」
明日花は、半袖から伸びる丸太のように太い彼の腕を、軽く叩いた。悠馬は、ふんと鼻をならした。だが彼が本当に聞きたいのは、他にあるようで、改めて彼女に言葉を投げかける。
「そういや明日花、あした――」
「あ、バスきたよ」
だが、悠馬の問いかけはバスの到着によって阻まれた。道路から五十センチほど上に浮遊している銀色のバスが大口を開け、乗客を受けいれようと待機している。悠馬は溜息をつき、バスに乗り込んだ。乗客を全て抱え込むと、バスは時速百キロの速さで移動し始めた。
窓際の席に座り、高速で流れゆく街並みを眺めていた明日花は、顔の向きはそのままに隣の悠馬に尋ねた。
「今日の一限目、なんだっけ」
「世界史」
悠馬はぶっきらぼうに答えた。明日花はあからさまに嫌そうな顔をした。
「うげー、私、世界史きらーい」
「俺は好きだぞ」
「悠馬だけだよ、授業聞いてるの。私も含め、みんな寝てるもん」
「いや、ちゃんと聞けよ」
悠馬の指摘を右から左へ聞き流した明日花は、大きな欠伸をしたあと、目を閉じた。
興味ないことを勉強しても、意味なんかないよ。それに、どうせ明日には――。
明日花はそう思いながら、学校へ着くまでの時間を、仮眠時間に割り当てることと決定した。
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