4人が本棚に入れています
本棚に追加
「皆さん、おはようございます。では、授業を始めます。前回の続きから」
教壇の前に立ったやせ細った体躯の、世界史担当の浅羽教諭は、教壇に埋め込まれた端末機器を操作し、教材を空間へ映し出した。教室にいる十二人の生徒のほとんどは、すでにまどろんでいる。切りのいいタイミングで、机に顔を伏せ、寝ようと画策しているようだ。そんな中、悠馬だけは真面目な表情をしている。浅羽は、淡々と話し始めた。
「えー、前回は第三次世界大戦の勃発起因で終わりましたね。第三次世界大戦は今から約二百年前の二一〇四年一月二十七日、生物兵器を隣国のインフラに投与した南夕国の宣戦布告で始まりました。事態を重く見た国連軍は、核兵器の使用を検討、ですが、生物兵器ウィルス『ガウス』の蔓延速度は凄まじく、当時八十億人の世界人口は、四分の一の二十億人にまで減少しました。我が国、日本国も当時は一億五千万人の人たちが暮らしていたんですよ、信じられませんよね。そして、大戦は勃発から五年、南夕国内で発生したクーデターによりあっけなく終結しました。ですが、ガウスウィルスの問題が解決していません。世界中の医学者が、特効薬発明に奮闘しました。……終結から二年後、運命の日は訪れました。救世主の誕生です。特効薬が生み出されたのです。では、ここで問題。特効薬を発明した医学者の名前を答えてください。では……、国崎君」
一番前の席にも関わらず、堂々と顔を伏せて眠っていた生徒、国崎は、体をびくっと震わせて起きた。何を質問されたかも分からず、また、例え質問の内容を聞いていたとしても、答えに窮するであっただろう国崎は、何秒かの沈黙の後「分かりません」と答えた。
浅羽は小さく溜息をつき、「よろしい」と言った。なにがよろしいのかは、浅羽本人にも分からない。
そのとき、勢いよく手を上げた生徒がいた。悠馬だ。浅羽は悠馬を指名し、回答を促した。悠馬は意気揚々と立ち上がり、透き通る様な声で答えた。
「オーギス人のアーガイル・スペンサー教授です。スペンサー教授は弱冠二十八歳で特効薬『バーバラ』を発明しました。薬名の由来は、彼の妻の名前からです。なお、最愛の妻であったバーバラ氏はウィルスにより、命を落としています。それにより、スペンサー教授のウィルスへの憎悪は、すさまじかったと記されています。以上です」
最初のコメントを投稿しよう!