記憶

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「皆さん、おはようございます。では、授業を始めます。前回の続きから」  教壇の前に立ったやせ細った体躯の、世界史担当の浅羽(あさば)教諭は、教壇に埋め込まれた端末機器を操作し、教材を空間へ映し出した。教室にいる十二人の生徒のほとんどは、すでにまどろんでいる。切りのいいタイミングで、机に顔を伏せ、寝ようと画策しているようだ。そんな中、悠馬だけは真面目な表情をしている。浅羽は、淡々と話し始めた。 「えー、前回は第三次世界大戦の勃発起因で終わりましたね。第三次世界大戦は今から約二百年前の二一〇四年一月二十七日、生物兵器を隣国のインフラに投与した南夕国(なんゆうこく)の宣戦布告で始まりました。事態を重く見た国連軍は、核兵器の使用を検討、ですが、生物兵器ウィルス『ガウス』の蔓延速度は凄まじく、当時八十億人の世界人口は、四分の一の二十億人にまで減少しました。我が国、日本国も当時は一億五千万人の人たちが暮らしていたんですよ、信じられませんよね。そして、大戦は勃発から五年、南夕国内で発生したクーデターによりあっけなく終結しました。ですが、ガウスウィルスの問題が解決していません。世界中の医学者が、特効薬発明に奮闘しました。……終結から二年後、運命の日は訪れました。救世主の誕生です。特効薬が生み出されたのです。では、ここで問題。特効薬を発明した医学者の名前を答えてください。では……、国崎君」  一番前の席にも関わらず、堂々と顔を伏せて眠っていた生徒、国崎は、体をびくっと震わせて起きた。何を質問されたかも分からず、また、例え質問の内容を聞いていたとしても、答えに窮するであっただろう国崎は、何秒かの沈黙の後「分かりません」と答えた。  浅羽は小さく溜息をつき、「よろしい」と言った。なにがよろしいのかは、浅羽本人にも分からない。  そのとき、勢いよく手を上げた生徒がいた。悠馬だ。浅羽は悠馬を指名し、回答を促した。悠馬は意気揚々と立ち上がり、透き通る様な声で答えた。 「オーギス人のアーガイル・スペンサー教授です。スペンサー教授は弱冠二十八歳で特効薬『バーバラ』を発明しました。薬名の由来は、彼の妻の名前からです。なお、最愛の妻であったバーバラ氏はウィルスにより、命を落としています。それにより、スペンサー教授のウィルスへの憎悪は、すさまじかったと記されています。以上です」
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