記憶

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 浅羽は、少し芝居がかった口調で言った。 「世界で初めてレーザー手術を受けたのは、スペンサー教授本人でした。手術は成功し、彼の持つ膨大な医学知識は失われずに済みました。――ですが、教授が一番愛していた妻のバーバラさんの記憶は、全て失っていたそうです」  浅羽は画面を切り替える。 「この記憶消失への対策は、皆さんご存知、『国民記憶保守組合』への記憶の保管ですね。もっとも、保管方法は至極アナログで、毎日その日あった出来事、想いなどを文字として記し、サーバーに保存する。まあ、いわゆる日記ですよね。その日記を、手術後に閲覧することにより、疑似的な記憶復活とします。本当に、疑似的なものですがね。私なんか、文才がないもので、手術後は日記を読み解くのに四苦八苦していますよ、ははは」  浅羽の渇いた笑いに同調するものは、誰もいなかった。浅羽は咳払いをして、恥ずかしさを誤魔化した。 「海馬腫瘍障害は、子へと必ず遺伝する魔の病です。ガウスウィルスという驚異に対抗できたとはいえ、代償はあまりに大きかったというわけです。今も、世界中でこの病への特効薬実験が実施されています。早く、出来上がるといいですね。ところで……」  浅羽は授業の残り時間を確認し、締めに入った。寝ていた生徒たちも、最後ぐらいは聞いてやろうと、いそいそと起きだした。 「近々、レーザー手術を受ける方、いらっしゃいますか」  一人の女生徒が、ゆっくりと挙手した。明日花だ。他の生徒は、明日花へ視線を転じた。
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