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明日花は、へらへらと笑った。その笑いは、純粋な"楽"や"喜"ではなく、なにか強がっている感情を押し込めているのを、悠馬は見逃さなかった。
「いーや、私は怖くないね。悠馬、図体でかいのに意外と小心者だなぁ」
「このとりとめのない会話も、忘れちまうんだぞ」
「そ、れは、浅羽先生がいうところの、『日記』をつければいいんだし? 問題ないでしょ」
「お前、本当にそう思っているのか?」
悠馬の真っ直ぐな視線が、彼女を貫いた。明日花はそれ以上茶化せなくなり、言葉を飲み込んだ。
――なんで、そんなこと聞くのよ。朝から考えないようにしていたのに。平気なわけ、ない、じゃない。
その後会話は全く弾まず、午後の授業開始五分前になって、二人は「戻ろうか」と手短に言葉を交わし、教室へ戻った。
その日の放課後、特に用事もない悠馬と明日花は早々に帰路についた。帰りのバス車内で、特に会話もなく二人は並んで座っていたが、急に悠馬が降車ボタンを押下した。とまった停留所は、彼らの家の最寄りと比べて大分手前であった。突拍子もない行動に明日花は訝しんだが、悠馬が彼女の手を強引に引いて共に降りようとしたので、思考は停止してしまった。
無言でずんずんと手を引きながら先へ行く悠馬についていくのが精いっぱいで、文句の一つも言う暇がなかったが、三分後、彼はようやく足をとめた。
そこは公園であった。公園と言っても、周りは近代化された住宅街に囲まれており、辛うじて二人が座れるベンチが現存しているのみであった。二人は、流れるようにベンチに座った。
悠馬が、常人離れした長い足を組みながら、問いかけた。
「この公園、覚えてるか?」
「いや、覚えてないけど。でも、日記には書いてあったかな。あんたとここで、よく遊んでいたって。こんな、なんにもない場所で、なにして遊んでたのかしらね」
「俺の日記には、ちゃんと書いてあったぞ。……小学校のころは、お前に泣かされながら、遊ばれていたらしい」
「へ、へぇー。記憶にございませーん」
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