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まさしく言葉通りの意味のブラックジョークを、悠馬は半笑いで受け止めた。その後、体ごと明日花へ向き直る。
「明日花、お前が好きだ。付き合ってほしい」
「……急だなぁ。ていうか、記憶なくす直前の私に、それを言うかね」
突拍子もない告白だったが、明日花はあまり動じなかった。なぜなら、鬼気迫る勢いで手を引っ張られていたときから、なんとなく愛の告白の予感はしていたからだ。彼のことなら、大体のことは分かる。
明日花は短く、「いいよ」と言った。だが、告白を受け入れてもらえたにも関わらず、悠馬の顔は厳しいままだ。
「明日花、頼みがあるんだが」
「なによ」
「今日の告白のこと、日記には書かないでほしい」
「は? いやいや、書かないとダメでしょう。忘れちゃうんだから」
「俺たちの愛の力は、その程度のものなのか?」
思わず吹き出しそうになった明日花だが、キスしそうなほど顔を近づけている悠馬を見ると、からかう気分は萎んでいった。同時に、どうしようもない絶望感が押し寄せてくる。
「いや、だってさ。スペンサー教授ですら、すごく愛してた奥さんのこと忘れちゃったんだよ? 覚えてるなんて、無理だよ」
悠馬は破顔し、くくく、と含み笑いをこぼした。
「明日花、世界史の授業ちゃんと聞いてたじゃないか」
「今はそんな話してない! ねえ、なんで日記に書いちゃダメなの?」
悠馬は、鼻の下を人差し指で軽く擦った。何か、大それたことを言う前の、彼の予備動作だ。彼のことは、何でも知っている。
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