父と娘

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父と娘

 パトロール中に公園を通り掛かると、小学生が一人でベンチに座っていた。声を掛ければ、親の仕事が終わるのを待っているのだと答えた。今は午後十一時だ。鍵を落としたか家に忘れてしまったのだろう。危ないから交番で待っていようと言ったのだが、移動したら親に手間をかけさせてしまうと首を横に振る。少し迷って、暫らくの間保護者の迎えを待つ事にした。 「待っているのお父さん? お母さんかな?」  話を持ちかけると、小学生は嬉しそうに話しはじめた。 「新しいパパはとても優しいよ、ご飯は三回食べても怒らないし、寝る時以外家にいても打ったりしないもの」  なかなか複雑な家庭環境らしいが、今は幸せそうで胸を撫で下ろした。 「あ、パパ!」  保護者を見つけたらしく、ぴょこんと立ち上がり、小走りで入口に向かっていく。 「お巡りさん、ありがとうございました!」  ぺこりと直角にお辞儀して、ランドセルにぶら下げたキーホルダーを揺らしながら、小学生は帰路につく。異常に頭部が大きい、真っ黒な体躯に白の斑点が浮かぶスライムのような生物に話しかけながら。
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