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母と息子
目を開けても、真っ暗だった。自分がいるのはベッドでも床の上でもない、生暖かく湿り気のある閉鎖的空間。起き上がると自分が素っ裸である事にも気づいた。またかと溜め息を吐いて、声を張り上げる。
「ママ、出して!」
「もう朝だよ、ママ!」
返事はない。仕方ないとその辺の肉の壁をつねった。ぶるりと空間が震えたかと思うと、ぽんっと外に出される。
「こら、ママは敏感肌っていつも言ってるでしょ!」
くわっと自分の身長と同じくらいの大きな口が開いたが、少年はけろっとした顔で言い返す。
「ごめんなさーい! でもママ、僕そろそろ準備しないと遅刻しちゃう」
「あらそうね、朝御飯はできてるわ、でもまず服を着なさい」
「服ないのママのお腹のせいじゃん……」
尻尾に引っ掛けられた服を受取ながら少年はぼやく。母親は申し訳なさそうに、少年の着替えを邪魔しない程度に頬ずりした。
「ごめんねぇ、最近また誘拐のニュースやってたから、ママ心配になっちゃって……」
「本当に心配性なんだから、あ、おはようママ」
腹の中とは正反対の、ひんやりとした鱗にキスをして、少年は朝御飯を食べはじめた。
「4年 3組、××。僕のお母さんは大きな蛇です、よく僕を丸のみにしちゃうけど、とっても優しくて大好きです」
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