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「薫くん、どちらにしろ今日は入院になるだろうし――君は一度屋敷に帰った方がいいだろうな」
「何を言うんですか」
どの面下げて帰れと言うんだ。
それでも――。
「あちらから迎えに来た日には、言い訳一つできないぞ?」
それも一理ある。
「2人とも忙しい身だろうから、今夜すぐ動画を見るということはないかもしれない。でも今夜君が帰らないと知ればどうなる?」
「間違いなく足取りを掴むでしょうね」
「だろ?」
意外と平気な顔して帰れば
今夜のうちは助かるかもしれない。
今夜のうちは――。
「薫お兄様のことは任せても?」
「ああ。ひとつ貸しだ」
「お返しはしますよ――まあ生きていればの話だけど」
僕は無理に笑うと
椎名さんの頬に気持ち程度口づけて
「じゃあね。永久の別れでなければまた」
固いソファーから立ち上がった。
今の僕にできることと言ったら
お兄様たちより先に家に帰り
シャワーを浴びて新しい服に着替えることぐらいだ。
それから合コンでは薫の方がモテたと言おう。
だから今夜は帰らないと――。
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