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それは、この日の朝――
「遅刻、遅刻ぅ!」
と、理亜はこの手のテンプレ通り食パンを咥えて馬復を蹴る。
女子高生を乗せ、疾走する荒ぶる騎馬の姿を、見慣れた人々は特に振り返ることはない。
そう、これはいつものように流れる日常の始まりである。
しかしこの日は違った。
苛立つような嘶きとともに、蹄の音を響かせてアスファルトを蹴る愛馬ロシナンテ(デストリア種らしい)だが、不意に前足を振り上げ、その走りを止めたのだ。
「どう、どう!……どうしたのよ、遅刻しちゃうじゃない!?」
咥えていたパンを右手に持ち替え、文句を言う理亜に、おもむろに地面へと顔を降ろした愛馬は、何かを咥えて、戸惑う主人の手にそれを渡す。
「これって……」
それは、小さな巫女服を纏うフィギュアであった。まるで美しい少女をそのまま1/12に縮めたような、超絶技巧を極めた造形のそれは、表情までもがリアルに、それこそ、小さな人間が目を回してぐったりしているかのような顔の作りを見せていた。
触り心地さえ、まるで本物の人間のようであった。
寧ろ……
「……違う、これ、本物のこびと?……」
理亜がそう思った瞬間、その小さな巫女が不意に動き、まるで小動物か何かのように飛び跳ね、自らを掴む[巨大な]手を振り払うと、目の色を変えてあるものに飛び付いた。
それは……
「あ―――! 私の朝食……」
そう、そのミクロ巫女は、理亜の右手にある食べかけの食パンに飛び付き、カジカジとあっという間に齧り、食べ尽くしてしまったのだ!
そればかりか……
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