第2章 父の帰国

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「ナツ、聞こえる?」 ヘッドセットのスピーカーから声が聞こえる。 「聞こえるわ。どうしてヘッドセットを被らなきゃならないの?」 ジュンはニヤリと笑い、「エンジンを掛ければ分かるよ」と言った。 ジュンは呟きながら計器や操縦桿のチェックを始めた。 「エンジン始動前にチェックする項目がたくさんあるんだ、ごめん足元触るよ」 そう言うとジュンが夏姫の脹脛(ふくらはぎ)の下に手を入れた。 「えっ? ちょっと!」 「サーキットブレーカーオールイン。ごめんそこにあるんだ」 夏姫は突然足を触られて口を尖らせる。 それに構わずジュンは操縦桿を前後左右に動かし、上を見上げてロータの動きを見ている。 「そうか、ヘリの操縦桿ってロータの角度をコントロールするのね。知らなかった」 ジュンが微笑んだ。 「正確にはサイクリックステックって言うだけどね。サイクリックを前に倒すと、ほらロータが前に傾く、左に倒すと左へ」 ジュンがそう言いながらサイクリックを動かして見せた。 夏姫は怒っていた事も忘れて物珍しそうに見ている。理系女の血が少しずつ騒いで来る。 「この真ん中の、サイドブレーキレバーの様な物は?」 「これかい? これはコレクティブレバー。ロータを見てご覧、これを上へ引くと・・」 夏姫はロータの動きを注視した。 「あっ、ロータの捻り角が変わるんだ」 「そう。捻り角を大きくすると大きな揚力が出るから上昇出来るし、小さくすると下降する。ヘリのエンジン出力はその上昇下降に合わせ自動調整される様に制御されている」 夏姫はへーと言って感心している。 「あともう一つの操縦翼面を動かすのが足元のラダーペダル。これを左右に押すとヘリのテールロータの捻り角が変化して、ヘリのヨーレートつまり機首を左右に降る事が出来る。これらの舵を全てバランスさせてヘリは飛行するんだ。頭で考えても中々上手く行かないから身体で覚えるしか無いけどね」 夏姫はもう完全に技術者の顔になってヘリの色々な部分を見渡している。
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