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「ここはロケットの丘。俺のH3―24Lが見える展望台だ。既に種子島宇宙センターは明日の打上げに向けて警戒態勢に入っていて、夏姫でもロケットに近付くのは無理だから、ここで見て貰おうと思って・・」
ジュンはそう言いながら夏姫の右手を握って、展望台の先まで進んでいった。
「あの四角い建物が大型ロケット組立棟(VAB)。あの中でH3―24Lは組立てられた。そして既に右の発射台に設置されている。見えるかい?」
遠くに見える施設を指差しながらジュンが説明してくれた。
「あのロケットでジュンは宇宙に行くのね・・。凄いよね。初の国産有人ロケットに乗るなんて。あのロケットに多くの人達の夢と努力が詰まっているのよね」
夏姫が発射台で夕日を反射させて輝いているロケットを見て呟いた。
「そうだね。俺と渡辺さんは宇宙飛行士としてあの機体に乗るから一番目立っているけど、宇宙飛行士の”このミッションへの貢献”は大した事ない。あのロケットを宇宙に飛ばす為に一つ一つの部品を設計して、製造して、検査して、そして打上げをサポートしてくれる人達の力で、この宇宙への飛行が実現出来るんだ。そんな多くの人達の代表として宇宙へ行ける事を心から感謝しているし、彼等のことを本当に誇りに思っている」
ロケットを見ながらそう話すジュンを見て、夏姫はとても素敵だと思った。何より宇宙飛行士に選ばれる能力を持ち、一年間の苦しい訓練に耐えた彼が、それを”ひけらかす“事無く他者の貢献に感謝する姿は本当にカッコ良かった。
夏姫は知っていた。ジュンがこの一年、どんな努力を続けたのか・・それがどんなに厳しく大変なものだったか・・
それは全て明日、あのロケットの打上げの成功の為に行われたものなのだから。
夏姫はロケットを見ながら、ジュンの左肩に自分の頭を預けた。
ジュンが夏姫の肩を抱いてくる。
夏姫がジュンを見上げるとジュンも夏姫を見つめていた。
「ジュン、愛しているわ。私は貴方の事、とても誇りに思っている。絶対にミッションを成功させて、真理さんを助けてくれると信じている・・」
ジュンが大きく頷いた。
夕日が輝く展望台で、遠くのロケットをバックにジュンと夏姫は、打上げ前最後の口づけを交わした。
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