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国産有人ロケット打上げ当日
種子島発射展望台
夏姫は朝八時に打上げ関係者用の発射展望台に向かった。
そこには既にジュンの両親のディブさんとローラさんが到着していて、夏姫を代わる代わるハグしてくれた。
遠くにジュンが乗るH3―24Lが発射台に据えられているのが見える。
展望台の前には二式の大型スクリーンが設置され、打ち上げカウントダウンと発射管制司令室の様子が映し出されている。
「ナツ、ケンはここに来ないのかい?」
ディブのその問いに夏姫は首を振った。
「父はCAPCOM(Capsule Communicator)担当で、打上げ管制室に居るわ。だからここには来ない」
昨日、父の健一は夏姫と一緒にディブとローラに挨拶をしていた。
なので、彼等は健一がここに来るものと思っていたのだろう。
「ローラさん。私、貴女がジュンに宇宙飛行士になって欲しくないって仰っていた理由が分かりました。私の本当の父の事故を思い出したのですよね。宇宙飛行士は危険な任務だと・・」
ローラが夏姫を見つめて頷いた。
「でも、ジュンはマリーの為に飛ぶの。どんなに危険があっても彼はマリーの為だったら、宇宙に向かうわ。私はそんな息子を誇りに思っているし、絶対成功すると信じている」
そう言うローラはやはりジュンの母親だと夏姫は思った。この人の影響でジュンは大きく成長出来たんだ・・
「ナツ、貴女は? 貴女も二人のお父様が事故に遭って、とても不安でしょう?」
夏姫は大きく首を振った。
「ローラさん。私はジュンが耐えてきた苦しい訓練を知っています。彼は一回も弱音を吐いた事はありません。絶対に成功させると心に誓って、訓練を繰り返していました。特に緊急対応訓練は自分で新しい手順を開発し、失敗のリスクを最低限にする為の訓練を何度も何度も繰り返してました。全ては真理さんを助ける為、そして再生医療技術に奇跡を起こして、多くの人を救う為です。私もジュンをお二人に負けないくらい愛していますし、心から誇りに思っています」
夏姫は遠くの発射台を見ながらそう高らかに宣言した。
ディブとローラは夏姫のその言葉を聞き、目に涙を浮かべていた。
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