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夏姫は今年二十歳。帝国大学の理工学部に通っている。
専攻は宇宙力学。ご他聞に漏れず理系の女子は未だ少なく、更に航空宇宙専攻は皆無と言っていい。この為、周りは男子ばかりだけど、だからと言って引く手数多という訳でも無い夏姫は、年齢イコール彼氏居ない歴の記録を更新中だった。
とは言え、夏姫はとても真面目に大学に通っていた。
授業で学ぶ新しい知識や論理は夏姫にとってとても楽しくて、いつもワクワクするものだった。
それは多分、父の血を濃く受け継いだからだと思っていた。
夏姫は自分の部屋のベッドから降りると、窓のカーテンを開けた。
見上げると素晴らしい青空が広がっている。
「今日もいい天気! 気持ちいい!!」
夏姫はそう言って大きく伸びをする。
「さて、行きますか・・」
夏姫は大学へ行く身支度を整えた。
階下に降りるといい匂いが漂ってくる。母の恵理が朝食の準備をしているんだ。
母は台所で、鼻歌混じりに作業をしていた。
夏姫の父と母は学生結婚の夫婦だ。なので二十歳の娘が居るとは思えない程、母はとても若々しく、並んで歩いていると、よく姉妹と間違われる。
それがとても嬉しいと母はいつも言っていた。
「母さん、おはよう。今日は私が朝食当番だったのにごめんね」
システムキッチンで目玉焼きを作っていた恵理が顔を上げて振り向いた。
「あっ、夏ちゃん、おはよう。大丈夫よ。今日は、健一さんが帰ってくるんだから。嬉しくて早く起きちゃったから・・」
そう、この夫婦は結婚二十年を過ぎたのに今だラブラブだった。特に父の健一が海外で単身赴任をしている為、健一の帰国の時は本当に浮き浮きしている。
「お父さんは何時に帰って来るの?」
夏姫はダイニングのテーブルに腰を降ろしながら聞いた。
「えっと、成田には午後三時くらいに到着だと言ってたから、夕方には帰宅すると思うわ」
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