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テーブルの上には、既にご飯とハムエッグ、お味噌汁と、海苔が準備されている。
夏姫は手を合わせ戴きますと言って箸を付けた。
明日はちゃんと早起きしなくちゃ。父さんの分も作らなきゃいけないし・・
と思いながら朝食を済ませる。
そして歯磨きして、もう一度、鏡で全身を確認すると玄関に向かった。
「お母さん、行ってきます」玄関で母に声を掛ける。
「行ってらっしゃい。気をつけてね」背中から声がした。
自宅から最寄の駅までは十分程だ。
この駅は、大学のキャンパスと同じ路線にあるので通学には最高の立地だ。
通学用の定期を改札に翳しホームに駆け上がると、丁度、通勤特急がホームに入ってくる所だった。
いつもの三両目のドアから乗り込んだ。
今日は居るかなと思って周りを見渡すと、右斜め前のシートに長谷川優子が座っていて、こちらに手を振っている。
彼女は同じゼミで唯一の女子、夏姫の親友だ。
「優子、おはよう。今日も同じ電車だったね」
夏姫は優子の前に立った。
「おはよう、夏姫。おっ、すっかり元気になったね?」
優子が微笑みながら夏姫を見上げる。
その言葉で、夏姫は完全に忘れていた昨日の出来事を思い出して、手を頭に当て大きく首を振った。
「優子、せっかく忘れてたのに思い出させないでよ・・」
優子が意地悪そうな笑顔を浮かべる。
「でも、彼、長身で美男子だったじゃない。そのまま付き合っちゃえばいいのに」
夏姫が大きく首を振る。
「昨日会ったばかりで、突然告白されても付き合いますって言えないわよ・・ 確かに好みの顔だったけど・・ あいつ・えっと・・?」
「川崎順一君だね。先週から大学院のドクターコースにMITから編入したんだって」
優子がウンウンと言いながら答える。
「そうそう、川崎君。えっ? MIT? 優子、どうしてそんな情報持っているの?」
夏姫は驚いた顔を優子に向ける。
「私の情報網を甘く見ないでよ。彼は凄いよ。既にMITで宇宙工学の博士号を持っていて、日本で別の博士号を取るらしい。年齢は私達と同い歳だよ・・」
夏姫が大きく目を見開いていた。そして、昨日の事件を思い出していた。
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