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第2章 父の帰国
その日、二時限目の講義が終わる少し前だった。
夏姫の耳に、突然、大きな騒音が響いて来た。
それは段々と近づいて、夏姫の居る建物の上を超えて行った。
「あれはヘリの音。こんな所にどうしたんだろう・・」
夏姫は首を捻ったが、直ぐにその音は聞こえなくなった。
二時限の講義が終わる。
次の講義の部屋は?と夏姫が時間割を見ていると、夏姫の横に誰かが立った。
横を見上げると、ジュンが微笑みながら立っている。
「ナツ、行こうか」ジュンがまた勝手な事を言っている。
「ちょっと待って。何処に行くって言うの? 次の航空力学の講義は301の部屋だけど、そこに一緒に行くって事?」
「違うよ。今日、お父さんが帰ってくるんだろう?」
夏姫はビックリして目を見開いた。(何で知っているの?)
「一緒に迎えに行こう。さあ」
そう言うとジュンは夏姫の右腕を掴んだ。
「ちょっと待って、何で父の事を知ってるの? それも今日帰国するって?」
夏姫はジュンの手を振り解きながら言った。
ジュンは首を少し傾げたが、口角を上げてニヤリと微笑んだ。
「何で知っているかは一緒に行ってくれたら教えるよ。どうする?」
「でも、航空力学の講義が・・」
「講義よりも実践の方が為になるよ。さあ早く」
「実践? 意味不明だけど、分かったわよ。とにかく付いて行ったらちゃんと説明してよね」
夏姫は後になって、この時に運命の歯車が大きく動いた瞬間だと感じる事になる。
その時、彼女が初対面のジュンと行動を共にするつもりになったのは、ちょっとした好奇心に過ぎなかったのだけど・・
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