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1. 控室
「それでは船越様。新入社員による決意表明の次が船越様の祝辞となりますのでこちらへお願い致します」
案内係が控室の白いソファーに静かに座る初老の男性に声を掛けた。
スーツの胸ポケットに白いハンカチーフを覗かせた船越は案内係の導きに従って舞台までの長い廊下を歩いていく。
いくら年齢を重ねても初めての経験というものは緊張するものである。
ましてや何千人という若者を前に自分のような者で本当に大丈夫なのだろうかと頭を悩まさずにはいられない。
自身を落ち着かせるためにも船越は初めて『信さん』に声を掛けられた幼少の頃のことを思い出していた。
きっと信さんなら「やってみなはれ」とあっけらかんと励ましてくれるのだろうと少し心が軽くなる。
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